類似企業のβを使って自社のWACCを計算する

今回は、企業が債権者・投資家に対してコミットするリターン、すなわち加重平均資本コスト(Weighted Average Cost of Capital:WACC)の算出方法について解説をしてゆきたいと思います。

WACCそのものの概念についてはこのコラムではご説明をしませんので、内容について詳しく理解したい方は、下記YouTubeチャンネルをご参照いただければと思います。

こちらのコラムでは、実務的にどのようなアプローチでもってWACCを計算するのか、特に非上場企業のように自社のβ値が市場データから入手することができないケースを想定して、デモンストレーションをしたいと思います。今回も従来通り、事例を使った解説をしてゆきたいと思います。

 

非上場企業であるA社のCFOであるあなたは、投資家からの資金調達を行うにあたり、このタイミングで自社のWACCを算出することにした。

株主資本の期待収益率(rE)を算出するために、マクロ経済データ(国債10年利回りやマーケットリスクプレミアムなど)をWebなどから入手するとともに、自社と類似の事業を行っている企業のデータも入手した。これらの情報は下記に記している。

また当社の事業規模は、相対的に小規模のため、専門家のアドバイスによりサイズプレミアムを乗せるべきだとの結論に達した。市場調査会社によると、当社の規模感であれば、サイズプレミアムとして3.5%は上乗せするべきとの意見を得た。

これらの情報を使って、自社のWACCを算出したい。どのようなアプローチでもってWACCを計算したらいいのだろうか。

 

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WACCとは、税引き後の債権者の期待利回り(rD)と株主資本の期待利回り(rE)の加重平均です。よって、まずはrDおよびrEを算出しなければいけません。

rDはすでに1.25%とデータがあるので、これに(1-税率)を掛けてあげれば税引き後の債権者の期待利回りを出すことは簡単にできます。今回のポイントはいかにrEを算出するか、ということになってきます。

 

rEはCAPMの公式を使って推定することができます。CAPMによるrEの算定方式は、

rE = リスクフリーレート + β値 x マーケットリスクプレミアム

ですので、そのパラメータの中に数字を入れていけばいいですね。リスクフリーレートには国債10年利回りを適用させてあげればよく、マーケットリスクプレミアムは6%とデータがありますので、それを直接当てはめてしまえばいい。ここまでは何ら難しくはないです。

 

ポイントになるのは、当社のβ値。通常であれば、日経新聞やロイター、東京証券取引所などが発表しているβ値を使えばいいのでしょうが、当社は非上場企業ということでβ値がありません。そこで同様の事業を営む類似企業をピックアップし、「同様の事業であれば事業リスクは同じである」という前提に基づいてβ値を抽出する、ということを行います。

 

ただし、β値というのは、負債比率によって上下します。つまりβ値とは、「事業リスク」と「株主が背負う財務リスク」の二つを反映しているため、「事業リスク」だけをピュアに取り出そうとするのであれば、「無借金時のβ値」すなわちアンレバードβに算出してあげることが必要となります。

 

つまりここでやろうとしているのは、類似会社のβ値を、いったん無借金時のβ値(アンレバードβ)に直してあげて、「事業リスク」をピュアに反映させたβ値をいったん抽出する。その後自社の負債比率に応じて、もう一度リレバーしてβ値(レバードβ)を算出する、というプロセスを追うわけです。

 

このあたりを文章で書くと、とてもややこしくなってしまうので、これらの算出ロジックを動画でまとめてみました。下記YouTube動画でご確認いただければと思います。

youtu.be