将来の事業計画をもとに、PLおよびBSを作り、必要な調達金額を算出する

あけましておめでとうございます。2014年もこつこつとティップスをためていきたいと思います。基礎的なティップスはある程度網羅したと思うので、今後は時事ネタや実務で使うシーンを想定したケーススタディ編を充実させていきたいと思います。

さて今回は、事業計画を立てる際に重要なポイントとなる「必要な調達資金の額」を算出するための考え方およびエクセルテクニックをご紹介。将来の損益計画や投資などの条件をもとに、将来の貸借対照表(BS)を作るとともに、必要な資金の額および調達方法について検討するポイントを解説します。今回もいつものように例題でもってご説明。

ハワイのオーガニック化粧品の輸入販売会社を経営するオカダ社長。創業5年たって売上高2億4千万円、営業利益も黒字化するなど、事業の基盤が固まってきたと思っている。これまでは単年度赤字、資金不足、人不足もあって、積極的な広告宣伝活動ができなかったし、システム基盤も脆いままごまかしながらやってきた。しかし第5期にようやく単年度黒字化を達成したということもあって銀行の融資姿勢も好意的になってきたので、第6期は積極的に広告宣伝やシステムに投資を行い、事業の加速度的成長を狙おうと思っている。
役員会で議論を進めてきたところ、システムへの投資および広告宣伝費に投資を行えば、売上高は今後3年間で飛躍的なペースで成長できそうだという結論に至った(その前提となる詳細数値は下記参照)。


さて、一体この計画を達成するためにはどのくらいの資金を調達すればいいのだろうか。またその調達方法は融資、増資、どちらで行うべきだろうか。ちなみに現在の銀行からの融資は第6期から毎月50万円の元金返済の約束を交わしており、年間の借入利率は3.7%。新規の借入れの利率も同率という条件を出されている(60か月の元金均等返済)。
ケースに関する資料(過去5期の財務諸表および将来計画の詳細条件)はこちらからダウンロードできます。cashflowsimulation_pre.xlsx 直

必要な資金を算出するための方法はいくつかありますが、ここでは次のステップに沿ってエクセルシートを作成する方法を解説しています。

  • 所与の条件で将来のPLを作る
  • 売上や売上原価に連動する運転資金(売掛金、買掛金、棚卸資産)の金額を確定させる
  • 固定資産投資の金額を入れる
  • 必要最低限の現金預金の金額を入れる(何日分の売上高に相当する現金を保有すべきか、と考えると算出しやすいですね)
  • BSの残りの項目に数値を入れる
  • BSがバランスするために必要になる金額(=資金調達すべき金額)を算出する

PLとBSは連動していますからね。丁寧に順番を追って入力していけば必ず財務諸表を作ることができます。具体的な手順に関しては下記の動画をご参照ください。

※作成したエクセルシートはこちらからダウンロードすることができます。
cashflowsimulation_post.xlsx 直

さて、今回の事業計画を遂行するにあたり必要となる資金は総額で1億6千万円あまりになることがわかりました。ここで考えるべきポイントは二つ。すなわち、

  1. 増資と融資、どちらの調達方法を採用するか
  2. どのタイミングでいくら調達するか

について最終的な意思決定を下さなければいけません。

算出した数値に基づいて「解釈」する

増資(資本金)で調達するか、融資(借入金)で調達するかを判断するには、それぞれの調達方法の特徴を押さえておく必要があります。一般論ですが、その二つの調達方法のメリットデメリットをまとめると下記の通りになります。

今回のケースであれば、ポイントになるのは二つになりそうです。すなわち、

  • 投資(システムおよび広告宣伝費)に対する売上増加、利益増加の確実度がどのくらい高いのか?
  • 仮に資本金による調達を選択するのであれば、投資家の希望に見合う条件になっているのか?

という点で議論を進めて最終的に意思決定をすることになるでしょう。

確実度が高ければ、返済義務があり返済スケジュールが決まっている融資であっても、低い資本コストの融資(借入金)で調達するほうが合理的です。キャッシュの出入りがほぼ見えているような運転資金などの調達は融資で行うのが鉄則です。一方、将来のキャッシュフローの不確実性が高いのであれば、そのリスクを負える人から調達することのほうが望ましい。リスク許容度の高いのは一般的には投資家ですから、資本金による調達を行うことが望ましいでしょうね。一般的に投資家のおカネが「リスクマネー」と呼ばれるのはそういう理由によるものです。

ただし、仮に不確実性が高いのでリスクマネーである増資(資本金)で調達しようと思っても、投資をしたいという投資家がいなければ調達はできません。ベンチャーキャピタルなどはそのような小規模ビジネスに対する投資家の代表格ですが、彼らが期待するビジネスサイズもベンチャーキャピタルによって違いがあります。数百億円、数千億円の事業規模になりそうなビジネスに絞って億単位を投資するベンチャーキャピタルが存在する一方、数千万円規模の投資ですぐにエグジット(投資回収)できる複数の案件に興味を持つベンチャーキャピタルもいます。投資家との交渉や契約締結にも時間がかかりますが、投資家の期待値を確認したうえで増資を行うことが重要です。

この手の話に絶対解はありませんが、個人的な見解としてはこんな感じになるでしょうか。

これまでとは非連続的なビジネス展開をするにあたり将来のキャッシュフローの不確実性が強いので、基本的には増資によるリスクマネーの調達を第一に考える。年度ごと都度調達するというよりは、この3カ年の成長戦略は一連の戦略によるものと考え第6期のタイミングでまとめて調達をする。ただし同時に運転資金などの不確実性の低い資金需要に関しては融資での調達もできるように銀行との折衝を同時並行で行っておく。こちらは必要に応じて都度調達できるような状態にしておくことが望ましい。

リスクマネー主体の資金調達」というのがオカダ社長の基本路線ではあるが、交渉の相手側の投資家が魅力に感じてもらえるような案件かどうかは事業規模の観点やビジネスモデルの新規性の観点から見るとまだ不透明。交渉をする中でより大きな、より斬新なビジネスを求められることを想定し、ビジネスモデルのファインチューニングができるかどうかを検討する。

最後の最後は、その投資家と長期間「握れる」関係を作れるか・・・というのが重要な観点のような気がします。

いかがでしょう?皆さんのご見解、ご意見もお聞かせいただけると嬉しいです。